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札幌高等裁判所 昭和52年(く)8号 決定

主文

原各決定をいずれも取り消す。

本件を札幌家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件各抗告の趣旨及び理由は、弁護人亀石岬提出の各抗告申立書記載のとおりであるから、これらを引用し、これに対し次のように判断する。

所論は要するに、原各決定は、本件各被告事件において被告人三名にはいずれも罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとして、各保釈請求をいずれも却下したが、被告人三名にはいずれも罪証隠滅のおそれは存在しない、というのである。

そこで、関係記録を調査し、当審における事実取調の結果をも合わせて検討するのに、被告人宍戸昌隆及び同皆川益肖は、佐々木芳夫との共謀にかかる児童福祉法違反の被疑事実につき逮捕・勾留されて、昭和五二年二月一八日起訴され、また被告人鈴木健市は、佐々木芳夫らとの共謀にかかる児童福祉法違反の被疑事実(右事件とは別事件)につき逮捕・勾留されて、右同日起訴され、同年三月二四日の各第一回公判において、右両事件は弁論併合のうえ審理されたこと、その際、被告人宍戸は佐々木及び被告人皆川との共謀を否定したが、皆川を通じ佐々木の指示を受けて行動したことは認めており、全体的には自己の罪責を否認する趣旨の陳述ではないこと、被告人皆川は被告人宍戸との共謀は否定したが、その他の事実については「そのとおり間違いありません」と陳述したこと、被告人鈴木は公訴事実を全面的に認めたこと、さらに同期日には、検察官の冒頭陳述に引き続き、検察官が被告人の各供述調書を含む四二点の証拠書類の取調を請求し、すべて証拠とすることの同意があり証拠調の決定がなされたが、証拠調はなされなかったこと、次回公判期日は追って指定とされたこと、第一回公判終了後、その日に弁護人亀石岬から、同年四月二日主任弁護人武田庄吉から、被告人三名につきそれぞれ保釈の請求がなされ、原裁判所は検察官の意見を聴いたうえ、同月四日被告人三名にはいずれも刑事訴訟法八九条四号に該当する事由があるとして、それぞれこれを却下したこと、が明らかである。

そうしてみると、被告人三名が被告事件についてそれぞれ前記のような陳述をし、検察官が取調を請求した証拠全部についていずれも同意書面として証拠調の決定がなされたことに徴して、被告人三名にそれぞれ同法八九条四号所定の罪証隠滅のおそれがあると断ずることは、少なくとも本件本案訴訟事件記録に現われた資料のみでは困難であるといわねばならない。逆に、被告人三名にいずれも罪証隠滅のおそれがないと断ずることも、本件が共犯の事案であり、その立証が供述証拠に依存せざるをえないことを考えると、本案訴訟事件記録に現われた資料のみでは困難であるといわねばならない。このような場合、保釈の許否を決するには、罪証隠滅のおそれの有無を認定するために、刑事訴訟規則一八七条四項に準じて未取調の検察官手持ち証拠の提出を命じ、これを調査検討することが適当であると考えられ、このように解しても、少なくとも既に証拠調決定のなされた証拠書類については、予断排除の原則に反するものではないというべきである。

ところで、当裁判所が調査したところによると、原裁判所は、本件各保釈請求に対する裁判をするについて、検察庁から関係記録の取寄せをしなかったことが明らかであるから、結局、原各決定は必要的保釈の除外事由の存否について審理を尽くさずになされたものというほかはなく、いずれも取り消しを免れない。

そして、本件各保釈請求に対しては、原裁判所において前記関係証拠の調査をしたうえ、原各決定後の事情をも参酌して決定をすることが相当である。

以上の次第で、刑事訴訟法四二六条二項により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 粕谷俊治 裁判官 高橋正之 近藤崇晴)

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